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乳がん 標準治療のエッセンス 自己検診可能、早期発見なら乳房温存も可能

乳がんと治療ガイドライン
診 断

 乳がんは乳房にできる悪性腫瘍です。乳房には母乳を作る乳腺があり、乳腺は乳汁を作る乳腺房を含む小葉と、乳汁が通る乳管からなります。乳がんの約90%は乳管の上皮組織から発生する乳管がんです。残りの約5%が乳腺房組織から発生する小葉がんで、そのほかに粘液がん、髄様がんなどがあります。

 乳がんは、がんが5mm〜1cmくらいの大きさとなると硬いしこりとなり、触ったり観察することで自分でも発見できる場合があります。乳がんの検診や診断でも、まず視触診(触ったり視たりする)が行われます。

 乳房をX線撮影するマンモグラフィは、触知することのできない微小ながんを発見できる場合があります。ただし若年者では、マンモグラフィによる検出能力は低く、陰性であっても乳がんの可能性を否定できません。

 超音波検査は、触診やマンモグラフィで分からないケースでも、乳がんの検出が可能な場合があります。また腫瘍の大きさを測定するにも有用です。ただし良性病変が検出される場合もあり、超音波検査で腫瘍が見つかっても必ずしもがんとは限りません。

 乳頭から異常分泌がある場合に、分泌のある乳管に造影剤を入れて写真を撮る乳管造影を行ったり、内視鏡を入れて観察する乳管鏡を行います。またしこりに細い注射針を刺し一部の細胞を吸い取って顕微鏡検査をする穿刺吸引細胞診、乳頭からの分泌物のがん細胞の有無を調べる検査も行われます。これらの方法によっても診断がつかないときには、しこりを手術で切除して病理検査を行う外科的生検を行います。

 乳がんと診断されれば胸部X線・胸腹部CT(コンピューター断層撮影)・骨シンチグラフィあるいはPET(陽電子放出断層撮影)で転移の有無を検索することになります。

治 療

 乳がんの治療法は、病期(表参照)やがんの広がり、がんの性質に応じて、外科手術、放射線療法、薬物療法を組み合わせて決められますが、基本は手術によってがんを完全に取り除くことです。

 手術は大きく分けて、?がんを含む乳房の一部だけを切除する「乳房温存手術」?がんを含む乳房を切り取り、わきの下のリンパ節は切除しない「単純乳房切除」?乳房とわきの下のリンパ節を切除する「胸筋温存乳房切除術」?乳房とわきの下のリンパ節、さらに大胸筋や小胸筋も切除する「胸筋合併乳房切除術(ハルステッド法)」─の4つに分けられます。

 がんが乳腺内にとどまっている状態(0期)、がんが乳房内にとどまっており、しこりの直径が3?以内の状態では、がんを含む乳房の一部だけを切除する乳房温存手術が行われます。日本乳癌学会の乳がんガイドライン2004年度版では、がんが3cm以下であり、乳管や小葉の中にとどまっている場合、条件が整っていれば、乳房温存手術は乳房切除術の代わりになるとしています。2005年の乳がん温存療法のガイドライン(厚生労働科学研究費がん臨床研究事業「標準的な乳房温存療法の実施要綱の研究」班)では、乳房の形を保つことができるのであれば、4cmまでの腫瘤も許容されると述べています。ただし、乳房温存療法による部分切除では、がんの再発を抑えるために、放射線治療を加えることが推奨されています。

 がんが周囲へ広がってリンパ管や血管に入った浸潤性がんの場合には、乳房とともにわきの下のリンパ節や脂肪組織も切除する「腋窩リンパ節郭清」を行います。

 以前は、乳房温存、乳房切除のいずれの手術でも腋窩リンパ節郭清が原則でした。しかしリンパ節切除では、上肢の知覚異常・浮腫・抵抗力の低下・肩関節の運動障害などの後遺症が残る場合があります。そこで手術中にリンパ節への転移の有無を調べる「センチネルリンパ節生検」を行い、リンパ節への転移がなさそうな場合には郭清を行わないケースが増えてきました。

 しこりが3cm以上あるか、3cm以下でも腋窩リンパ節に転移している場合は胸筋温存乳房切除術が行われます。

 これらの場合、先に抗がん剤による治療を行い、これによってがんが十分小さくなれば、乳房温存手術が行える可能性が出てくることもあります。この方法は、抗がん剤の術後投与に比べて再発のしやすさなどには影響を与えないということが認められています。

 胸の筋肉や乳房の皮膚にがんが広がっている場合(3b期)は手術ができない場合も少なくありません。その場合、抗がん剤治療や放射線療法を行い、がんが小さくなれば手術が可能となることもあります。手術としては、乳房と腋窩リンパ節に加えて、乳腺の下にある大胸筋や小胸筋を切除する胸筋合併乳房切除術(ハルステッド法)が選択される場合もあります。

 1〜3期の乳がんは転移や再発の起こりやすさを、がんの広がりや性質によってある程度予測できます。再発する危険性の高い場合には、手術後にホルモン療法や抗がん剤による補助的な治療を行うのが一般的です。

 骨や肺などの遠隔の臓器に転移している場合(4期)には、手術の適応にはなりません。薬物による全身治療を行い、がんの進行を抑え、がんによる症状を抑えます。痛みや骨折、神経圧迫の危険のある骨転移部位に放射線治療を行ったり、整形外科的手術が行われることもあります。また、脳に転移した場合には放射線療法や手術が行われることもあります。

 乳がんには、女性ホルモン(エストロゲン)の刺激ががんの増殖に影響しやすいがんと、そうではないがんがあります。前者は「ホルモン依存性乳がん」と呼ばれ、乳がんの7割程度を占めます。ホルモン依存性乳がんかどうかは、がん細胞に「ホルモン受容体」が出ているかどうかで判断されます。ホルモン依存性乳がんの場合、ホルモン療法による治療効果が期待され、閉経状況や年齢に応じて、標準的なホルモン療法を行います。

 閉経後の女性では、女性ホルモンの産生を抑えるアロマターゼ阻害剤や、女性ホルモンがホルモン受容体に結合するのを抑える抗エストロゲン剤(タモキシフェンなど)が用いられます。閉経前の女性には、卵巣からの女性ホルモンの分泌を抑える黄体ホルモン分泌刺激ホルモン抑制剤なども使用します。閉経前の女性の場合、ホルモンを分泌する卵巣を取り除く方法もあります。

 ホルモン依存性乳がんでない場合、がんの進行が急速で生命を脅かす場合は抗がん剤治療が中心となります。乳がんは抗がん剤の治療効果が比較的高いがんです。薬の効果を上げるため、幾つかの抗がん剤を併用して投与する多剤併用化学療法が行われることがありますが、身体の状態によっては単独の抗がん剤で治療することもあります。また最近では「HER2(ハーツー)」というたんぱく質をたくさん持っている乳がんに対して、ハーセプチンという抗体療法が効果を上げています。

予 後

 乳管や小葉の中にとどまっているがんの場合、転移がなく予後が良好です。しかし、がんが周囲へ広がりリンパ管や血管に入った浸潤性がんでは、リンパ節やほかの臓器に転移するなどして、予後が非常に悪くなります。

 乳がんは、取り残したがん細胞を殺すための補助的な治療を術後に行うことで再発を抑えることができます。またほかのがんは通常、術後5年間再発がなければほとんど心配はなくなりますが、乳がんは10年後に再発するケースもあり、術後は長期にわたっての経過観察が必要です。(S)

図 乳がんの主な治療方法

表 乳がんの病期

参考資料
*「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン
〈1〉薬物療法(2004年版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン
〈2〉外科療法(2005年版)」「 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン
〈3〉放射線療法(2005年版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン
〈4〉検診・診断(2005年版)」「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン
〈5〉疫学・予防(2005年版)」(日本乳癌学会編集 金原出版)
*「がん情報サイト」の「乳癌」の項(米国国立がん研究所によるPDQと呼ばれる解説の日本語版)
http://mext-cancerinfo.tri-kobe.org/database/pdq/summary/adulttreatment.jsp
*国立がんセンターがん対策情報情報センター がん情報サービスの「一般向けがん情報、各種がんの解説、乳がん」の項
http://ganjoho.ncc.go.jp/pub/med_info/cancer/index.html
2006年12月 5日

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